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富樫春生さん、「1年くらいしか生きない」
と言われた大型犬を受け入れ、
しつけの大切さと老犬介護の日々を振り返って

HAL-Oh Togashi&
RHODESIAN RIDGEBACK


長生きさせる秘けつは分からないけど
犬に寄り添うことかな

木村拓哉の初ソロアルバムの楽曲アレンジをこなし、Kink Kidsのドームツアーに参加。 鬼束ちひろのデビュー8周年、オーチャードホールで行われたプレミアムコンサートでは、コンサートマスターを務め、荘厳で幻想的なピアノ独奏を披露。
さらに、ワールドツアーを行い、世界的に注目を集めるロックバンドMUCCの限定版シングル『フリージア』「Rhodesian Ridgeback ver.」ではドラマッチクなソロを聴かせている。 鍵盤で人々を魅了する富樫春生さんに、愛して止まない犬たちとのライフスタイルについてうかがった。

ENCOUNTER WITH RHODESIAN RIDGEBACK

ローデシアン・リッジバックに魅了され
愛犬家殺人事件の現場へ

富樫春生さんはミュージシャンとして名高いだけではない。実は部類の犬好きとして動物愛護の業界では一目置かれる存在なのだ。しかも飼っていたワンコは、ローデシアン・リッジバック。アフリカではライオン狩りに活躍する猟犬で、知的で非常に勇敢な大型犬である。日本での登録者数(ジャパン・ケンネルクラブ)は年に1件から2件と少なく、希少な存在のワンコなのだ。

先住犬が亡くなる間際に子犬を 犬とともに過ごした20年

「今までローデシアン・リッジバック2匹と一緒に過ごしました。最初の犬が亡くなる間際に2匹目が来たので、犬たちと共有した時間は20年以上になるかと思います。顔つきはとても強面ですけど、本当におだやかなんですよ。飲み屋で怖そうなお兄さんと一緒になって萎縮してたら、“おう。お前も飲めよ”とおごってくれて、話してみたら、すごいいいひとだった……そんな感じの犬種です(笑)」

ローデシアン・リッジバック最初の犬が亡くなる間際に2匹目が来た頃アヌビスちゃんとサナンダちゃん
最初の犬が亡くなる間際のアヌビスとサナンダ仔犬の頃

愛犬との出会いは殺人現場?! “アフリカンケンネル”の犬を

 犬を飼いたいと奥様と図鑑を見ていて、ローデシアン・リッジバックに目がとまった。ご夫妻でファンとなり、ローデシアン・リッジバックとのドッグライフを夢見たが日本では少ない犬種ゆえ、ペットショップでも見かけることはなかった。奇しくも1990年代前半、世の中は「愛犬家殺人事件」に湧いていた。 簡単に説明すると、埼玉のペットショップ“アフリカンケンネル”で、社長兼ブリーダーが共同経営者やペット購入者を金銭トラブルで次々に殺害した事件である。主犯格のブリーダーはシベリアンハスキーブームの仕掛け人といわれ、大型犬はもちろんのこと、トラやライオンなど猛獣のリースも行っていた。

映画 冷たい熱帯魚

出典:『冷たい熱帯魚』Wikipedia

「『冷たい熱帯魚』という映画にもなりましたけど、愛犬家殺人事件の“アフリカンケンネル”の犬をもらったんです。『フォーカス』に、あのひとは今のような特集があってローデシアン・リッジバック2匹が掲載されてたんですね。僕は知らなかったんだけど、嫁が編集部経由で連絡を取って、引き取りの算段をしていたんです」

90年代布袋寅泰今井美樹ツアーに参加の頃
90年代布袋寅泰氏今井美樹氏ツアーに参加の頃

奥様が仕事で海外にいるとき、“アフリカンケンネル”の代理人から突然、「明日、取りに来て欲しい」と突然、連絡が入る。寝耳に水であったが、ローデシアン・リッジバックとの暮らしは憧れである。富樫さんは車で“アフリカンケンネル”に向かう。事件から1年が経過しており、犬の管理状態は非常に悪かった。しかし、ローデシアン・リッジバックは犬舎から飛び出し、美しく見事なコンクール走りで富樫さんを魅了する。
ローデシアン・リッジバックアヌビス老犬
IN THE CHEST OF MY BELOVED OWNER

病気の嵐が13年半
愛する飼い主の胸で

「ローデシアン・リッジバックは、対角線上の2本の足でリズミカルに地面を蹴って犬舎から飛び出しました。ドックショーで見かけるトロットですね。実はアメリカの西海岸でチャンピオンになった犬だったんです。けれど、あまりご飯をもらってないようで、そのあと苦しそうに咳き込んだんです。かわいそうにと思って見ていると、シャーッとおしっこを始めて10分くらい止まらない(笑)。バスケットコートのような敷地に大きな水たまりができて……引き渡しの男性から2匹一緒にと言われたけど、おしっこの量が半端ないし、無理だと思って1匹だけ連れて帰りました」

アメリカのチャンピオン犬 きちんとしつけられていた

ローデシアン・リッジバックはオス4歳。エジプト神話で死者の魂を黄泉の国につれて行く神様から、アヌビスと名づけられた。顔が犬で人間の体を持つ半獣像といえば分かるひともいるのではないだろうか。連れ帰ると富樫さんは速攻でアヌビスちゃんを風呂に入れた。驚くほどおとなしく、アメリカでチャンピオン犬になるべく、きちんとしつけられていたことが理解できた。さらに動物病院で検査をする。

最初の犬が亡くなる間際に2匹目が来た頃ローデシアン・リッジバック アヌビスとサナンダ
wiki:エジプト神話に登場する冥界の神

病気も全部治ったが犬も人間の介護と同じで寝たきり状態へ

「アヌビスは病気の嵐で“これはもう1年くらいしか生きない”と言われました。でもね。1年でも家で幸せに暮らしてくれればいいと思ったんです。そしたら、それから10年以上生きました。アメリカで繁殖犬として過ごして、4歳で我が家に来たので13年と半年生きた。不思議なことに病気も全部治っちゃった。ローデシアン・リッジバックもそうですけど、グレートデンなどの大型犬は8年、9年生きれば長生きなんです」

アヌビスちゃんは大型犬としては大往生。最後は老衰で亡くなった。半年から1年は後ろ足が抜けて歩行困難となり、寝たきり状態だったという。人間の介護と同じである。ましてや立ち上がると富樫さんより大きく、体重は40キロ程度、スレンダーな成人女性さながらの体格だ。

亡くなる前数日は心配で添い寝して、抱きかかえたまま

「獣医さんから、あと1か月。あと10日、1週間と言われながらずっと、がんばって生きてくれました。そのとき、ローデシアン・リッジバックの赤ちゃんが生まれたと聞いて、迎える決断をしました。子犬が来たら、アヌビスは少し生きる気力が湧いたようでした。亡くなる前数日は心配で添い寝してたんですけど、明け方、すごく鳴くので“これはもう逝っちゃうかな”と抱っこしていたら、すーっと息を引き取りました。最後、看取れたので良かったなと」

なんと幸せな亡くなり方だろうか。愛されて健康を取り戻し、心を寄せる主人の胸に抱かれた安らかな最後。女性ならオンナ冥利につきるというものだ。アヌビスちゃんは名前の通り、自らの魂を黄泉の国へと導いた。

ローデシアン・リッジバックの赤ちゃんが生まれたと聞いて、迎える決断
ローデシアン・リッジバックの赤ちゃんが生まれたと聞いて、迎える決断

ペットロス、アヌビスちゃんを見送った悲しみに暮れているヒマはなく、富樫さんには赤ちゃんローデシアン・リッジバックの世話が待っていた。
2匹目も同じくエジプト神話からサナンダちゃんと名づけられる。サナンダはキリストの別名ともいわれ地球の守護神である。

富樫春生氏笑顔で

Photo by 梁川 剛(やながわ ごう)

MYSTERIOUS TOGASHI MAGIC

死も排泄も介護も笑顔
不思議な富樫マジック

「日本ではローデシアン・リッジバックを飼っているひとが、少なくて自然とネットワークが生まれるんです。アヌビスが思わしくないときに、赤ちゃんが生まれるという情報が入ってきて譲り受けることにしました。またオスです。サナンダも長生きでしたね。兄弟でいちばん長く生きたんじゃないかな。みんな10歳を待たずにばたばたと逝ってしまったから」

アヌビスちゃんとサナンダちゃんは少しの間だが、一緒に暮らすことができた。寝ている部屋で、アヌビスちゃんの排泄がうまくいかず大きな水たまりを作ってしまったことがあった。そのときに“お兄ちゃんがしてるから僕もいいんだ”とばかりに、サナンダちゃんが追いうんこをする。「朝起きたら、湖に浮島がたくさん浮いていたんです」と富樫さんは笑う。

7歳で体質が変わる 皮膚病を超えたら病気知らず

「サナンダは7歳くらいのときに体質が変わったのかな。皮膚に湿疹ができました。かかりつけの獣医さんでは薬をもらっても治らず、皮膚科で有名な先生を紹介してもらいました。受診が4万から5万でトータル3回。驚きの値段でしたが、治ったので後悔はしていません。完治したあとは死ぬまで病気をしなかったしね」

ローデシアン・リッジバックサナンダを迎え入れた頃

サナンダちゃんもアヌビスちゃんと同じで、後ろ足が抜けて寝たきり状態となった。年末に体調が悪化、食事を摂らなくなってしまう。しかし富樫さんの介護で年を越すことができた。

ローデシアン・リッジバックサナンダを迎え入れた頃
抱っこが大好き

可愛がってくれた友人の訪問を待って翌日に、、

「正月、サナンダが大好きだった友人夫妻が来ることになってたんです。“1月5日に来るよ”と話をしていました。当日、サナンダは大好きな友人と逢ってうれしそうでした。そして翌日に亡くなりました。会える日まで、がんばってくれたんでしょうね。そのときも添い寝していたんですけど、熟睡して起きたら息を引き取っていました。死んだときに、うんこいっぱいしていて、1週間以上何も食べてなかったのに、こんな大量に出るのかと(笑)」

後ろ足が抜けて寝たきり状態。老犬介護のためツアーやレコーディングを調整する
後ろ足が抜けて寝たきり状態。この頃からツアーやレコーディングを調整

富樫さんのドックライフは、どこまでも限りなく明るい。介護の苦労をみじんにも感じさせず、死も排泄も楽しい話に聞こえるから不思議だ。2匹の大型犬を13年以上長生きさせる富樫マジック! 育て方のコツはあるのだろうか。

STRICT DISCIPLINE AND DEEP AFFECTION

かわいがり方の節度
厳しいしつけと深い愛情

「長生きさせる秘けつは分からないけど、犬に寄り添うことかな。それから健康に気をつけること。気をつけるといっても特別なことはしていないです。カリカリ……ドライフードのみで、おやつはなし。ステーキを食べさせて自慢する飼い主もいますけど、ある意味、偏食でしょう。 でもあまり神経質になっても良くない。アヌビスは来たとき、食が足りてない、愛情不足の環境で育ったので、模様替えをするだけで落ち着きがなくなるような子でした。最初に家を空けたとき、玄米ひと袋食べてお腹パンパンで玄関に倒れてたことがあります。ほかにも辛いカレーや石狩鍋を完食しちゃったりね。ネギは良くないと聞いていたから、大丈夫かなと思ったけど、これで死ぬなら本望かなと。でも結果長生きしたので」

富樫さんの言う犬に寄り添うドックライフとはどんなものなのだろうか。育犬ノイローゼではないが、育て方に悩む飼い主も多い。犬を飼うひと、これから犬と過ごしたいひとにアドバイスをいただいた。」

誰がリーダーか立ち位置を明確にして、しつけることが大切

「犬は上下関係。人間がきちんと上に立ってあげないと彼らは戸惑います。吠えたときに優しく“だめよ”と諭しても効き目はないと思う。吠えたことを褒められたと勘違いして次の無駄吠えにつながります。飼い主の横をきちんと歩く、座れ・待てなど誰がリーダーか立ち位置を明確にして、かわいそうではなく、厳しくしつけることが大切です。特に大型犬の場合はひとにケガをさせる危険もありますからね。犬だけではなく、動物全般ですけど、飯・トイレ・かわいがるの3点セットを整える。さらに飼っている人間の都合ではなく、かわいがり方にも節度を持って気持ちをくんであげることかな。忙しいときは放置しても犬は分かってくれます。叱っても根に持たない(笑)。10秒後には忘れます。ペットは飼主の鏡です。感情的な飼主のペットは不安定になります。だから、あなたがリラックスした状態で、深い愛情を持っていれば何も問題はありません。常におおらかな気持ちで接してあげてください」

ローデシアン・リッジバック 後ろ足が抜けて寝たきり状態。老犬介護のためツアーやレコーディングを調整する
富樫春生氏とローデシアン・リッジバックサナンダさん

問題行動の敗因は、しつけている飼い主にありそうだ。思い通りにならないからといって、イライラしないことも大事なポイント。飼っている犬の性格に応じて接しながら、「いるだけで幸せ」と思えるのが飼い主のファーストステップかもしれない。 富樫さん! ワンコファン必見のお話をありがとうございました

ちなみに1日3回の散歩で、富樫さんは数々の名曲を生んでいる。すべて富樫さんのバンド・Cherry’sのCD『Cherry’s』収録の「sananda(サナンダ)」。梵鉾(bom'boco) のCD『ラップたらちね』収録の「ANUBIS(アヌビス)」は必聴! 富樫さんとワンコたちとの美しい風景が見えるかも。ぜひ、聞いてみてください。」
富樫春生、自宅にて生ピアノ演奏でで2021年元旦ご挨拶

富樫春生(とがしはるお)

URL:http://hal-oh.com/hal-oh/
70年代後半から80年代は主にスタジオでレコーデイングの仕事に没頭。
85年に近藤等則IMAに参加。約10年間海外20数カ国で定期的に演奏 科学技術省の映像祭でピアノのBGMだけで語りも何もない作品『草間の宇宙/栗林慧』が内閣総理大臣賞受賞
鬼束ちひろの復活に力を貸し、 約5年振りにオーチャードでのコンサート(ピアノだけ、後半弦がはいる)及び夏のROCK IN JAPAN FESTIVAL(ピアノとDUO)へ参加。 ラルク・アン・シェルやペニシリン、CRAZE等のプロデュース
wiki:富樫春生

大竹香織 /インタビュー・構成・文
編集ライター、大手雑誌編集長を経て独立。一般書籍から企業フリーペーパー、 電子書籍ほか、ウエブやアプリ制作を行う。ライフスタイル、美容健康、占いスピリチュアルなど実績は多数。ビーグル犬を看取った経験あり、過去にはペット雑誌『シーバ(辰巳出版)』などにも執筆。
http://www.supple.ne.jp/